10月12日、ブラジルでは「ノッサ・セニョーラ・アパレシーダ」の祝日でした。
直訳すると「我らがアパレシーダ聖母」となりますが、“アパレシーダ(Aparecida)”とはブラジルではポピュラーな女性の名前であり、またブラジル政府、そしてローマ法王が正式に認定したブラジルの守護聖母の名前でもあります。
今回はそのアパレシーダ聖母と、アパレシーダにまつわる音楽についてご紹介していきます。
ライタープロフィール
Willie Whopper:Jornal Cordel初代編集長、現・顧問。ブラジル音楽愛好家。2006年東京・西荻窪にブラジル情報発信スペース「Aparecida」開店。2011年9月、第1回ブラジリアン・プレス・アワード音楽部門受賞。2011,13,14,17年に駐日ブラジル大使館で、18年にはブラジル・サンパウロでもブラジル音楽についての講演を行う。これまでブラジル音楽に関する著書を6冊出版。
サイト:Barzinho Aparecida
- 1. “褐色の聖母”アパレシーダ
- 2. 「Romaria」に導かれてブラジルへ
- 3. 「Romaria」名演セレクション
- 3.1. エリス・レジーナ(『Elis Regina』(1977)収録)
- 3.2. ヘナート・テイシェイラ(『Romaria』(1978)収録)
- 3.3. マリア・ヒタ(『Redescobrir』(2012)収録)
- 3.4. イヴェッチ・サンガロ(『Um barzinho, um violão sertanejo』(2009)収録)
- 3.5. マリア・ベターニア(『Diamante Verdadeiro』(1999)収録)
- 3.6. パソッカ(『BREVE HISTÓRIA DA MÚSICA CAIPIRA』(1997)収録)
- 3.7. イネジータ・バホーゾ(『Voz e Viola』(1996)収録)
- 4. 「Romaria」歌詞のリンクはこちら!
“褐色の聖母”アパレシーダ

今からちょうど301年前の10月12日、時のサンパウロ知事がミナス・ジェライス州に出張に出かけたのですが、当時はまだ鉄道もバスもなく馬車で行くことになり、途中の村で1泊することになりました。
事前に連絡を受けていた村人たちは知事をもてなそうと近くを流れる川に小さな船を出して魚を捕りに行ったのですが、どういう訳かその日に限って一向に魚が取れないのです。
徐々に日暮れも近くなり、もう時間がないと困惑しながら網を投げたところ、引き上げて出てきたのは顔の部分が取れていた黒いマリア像でした。(泥水で汚れていたとの説もあります。)
その像を丁寧に磨いて飾り、再び網を投げ入れると今度はマリア像の顔が出てきたのです。
二つをくっつけ、またお祈りして網を投げたら、今度はこれまでが嘘のように大量の魚が捕れたのです。
その日の夜の知事の歓迎会は無事に盛り上がったのでした。

村人たちは小さなほこらを作って黒いマリア像を祀りました。
すると不思議なことが次から次と起こるようになったのです。
盲目の人の目が見えるようになったり、車いすだった人が歩けるようになったり。ひどい仕打ちを受けていた奴隷が「自由になりたい」と願を掛けたら鎖が自然と切れたということもありました。
「こんなのはインチキだ」と馬に乗って踏みつぶそうとした人もいたのですが、馬がいうことを聞かなくなり出来なかったとか。
多くの奇跡を起こしたマリア像の噂は「アパレシーダ(「現れた」という意味)」の名前でブラジル全土に広がりました。
時のイザベル王女もアパレシーダ像に祈願、後にブラジルの守護聖母と公式に認定されたのです。
「Romaria」に導かれてブラジルへ

私はキリスト教徒ではないのですが、エリス・レジーナ(Elis Regina)が歌った「ホマリア(Romaria)」という曲からアパレシーダに興味が湧き、2005年に初めて大聖堂へ行きました。
サンパウロからバスで2時間半、ブラジルの片田舎の町にはゆったりとした時間が流れていました。

遊園地や水族館もあってちょっとしたテーマパークのようになっていたのは予想外でしたが(苦笑)、平日にも関わらず、ブラジル各地から来たであろう信心深いブラジルの一般庶民の人たちの表情に心を打たれました。

そして翌年、ブラジルをテーマにするお店をやることに決めた時に、店名は必然と「Aparecida」になったのでした...。
Willie Whopper顧問がオーナーを務める「Barzinho Aparecida」は、2018年10月12日でオープン12周年を迎えました!おめでとうございます!
「Romaria」名演セレクション
エリス・レジーナ(『Elis Regina』(1977)収録)
当時既に大スターだったエリス・レジーナが歌って大ヒットした一番有名なバージョン。伴奏はいつものグループではなく作者ヘナート・テイシェイラのグルーポ・アグアを起用。教会の鐘の音に泣けます。
以下YouTubeの音源は、上にあげた1977年のアルバムのものではなく、ポルトガルで行われたライブの音源です。
ヘナート・テイシェイラ(『Romaria』(1978)収録)
エリスに楽曲提供したことで注目されたヘナート・テイシェイラ(Renato Teixeira)。エリスが大ヒットさせた後に自身のアルバムに収録。70年代フォークロックとムジカ・カイピーラの融合。
マリア・ヒタ(『Redescobrir』(2012)収録)
「絶対に母の歌は歌わない」と宣言していたエリスの娘、マリア・ヒタ(Maria Rita)がデビュー10周年に母の持ち歌だけを歌うショウを開催。
エリスファンはどうしても彼女に母の影を感じます。

イヴェッチ・サンガロ(『Um barzinho, um violão sertanejo』(2009)収録)
ブラジルで大人気のアンプラグド・ライブ・シリーズのセルタネージョ編。イヴェッチ・サンガロ(Ivete Sangalo)は作者ヘナート・テイシェイラとデュエット。DVDも出ています。イヴェッチは何を歌っても味があります。
マリア・ベターニア(『Diamante Verdadeiro』(1999)収録)
50代に入り歌手としても円熟期を迎えたマリア・ベターニア(Maria Bethânia)がストリングスを加えてライブ収録した作品。CD2枚組の大ボリュームです。
パソッカ(『BREVE HISTÓRIA DA MÚSICA CAIPIRA』(1997)収録)
サンパウロの吟遊詩人、パソッカ(Passoca)。ブラジルの田舎ギター、ヴィオラ・カイピーラの名手でもあります。この作品はムジカ・カイピーラの有名曲を収録。リオデジャネイロやバイーアの海の音とは全く違ったブラジル内陸部の音楽です。
イネジータ・バホーゾ(『Voz e Viola』(1996)収録)
ムジカ・カイピーラ界の女王、イネジータ・バホーゾ(Inezita Barroso)が、ヴィオラ・カイピーラの名手ホベルト・コヘア(Roberto Correa)とデュオで録音。「ホマリア」は、いまではすっかりカイピーラ界の定番曲になりました。
「Romaria」歌詞のリンクはこちら!
ROMARIA / Elis Regina – Letras.com
文責:Willie Whopper/編集:noriji
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